この記事は、同人誌即売会などで「紙」の同人誌を作ろうと考えている方に対して、すでに40年以上は軽く議論されている問題について、現時点での自分の考えを改めて述べておくためのものです。
印刷手段によるコスト差
まずは基本の話から。
よほど変なことをやっている人でなければ、通常この3つの中から選択を検討することになると思います。折本とかはしょーじきよくわからんのでパスで。
- コピー
- 同人誌印刷所によるオンデマンド印刷
- 同人誌印刷所によるオフセット印刷
以下、これら3手段の主観による比較を行いますが、自分の過去の経験などによりますので現在の事実に相違した点があればご指摘歓迎します。
まず一番気になる、部数と値段のことを中心にまとめておくと、こうかな。
| 印刷手段 | 最小部数 | スケールメリット | 備考(わりと主観が入ってます) |
|---|---|---|---|
| コピー | 1 | なし | 何部刷ろうが1部あたりの単価は安くなりません。 前日や当日朝の版下完成が可能なのが最大の強み。 表紙をフルカラーにできないのが最大のデメリットかな…。 |
| オンデマンド印刷 | 10 | 多少 | さすがに10部だと割が悪いと思うけど、50部以上なら部数を増やしても単価に大差なし。なので欲をかいてうっかり100部刷って在庫を抱えて困るよりは、50部が完売したらただちに増刷を検討でいいと思います。安定して常に100部を刷ってほどなく完売できる規模のサークルなら、オフセットで200部スタートにすることを検討してもいいんじゃないでしょうか…。 |
| オフセット印刷 | 50 | 大 | 部数にかかわらず一番かかるのが製版代なので、50部は単価を考えるとほぼ論外で、100部でも厳しめ。200部以上を刷って売れる手ごたえがあるなら検討…でいいんじゃないでしょうか。 もちろん300~以上を刷っても完売できると思うならできるだけ多くするべきです。通常は印刷が終わるなり版は印刷所で破棄される筈なので、再版でも最初と同じだけの印刷代になってしまいまうことには注意が必要。 この法則があるので、経験の浅い新参サークルが1000部売れれば大儲けだとばかりに皮算用で印刷をしたら実際には5部しか売れずに大惨事というコミケ童話は、いまも初心者への戒めとして言い伝えられています。 |
上記の表からの結論は、およそ明らかだと思います。つまりこういうこと。
- コピー=ギリギリまで新刊に最新ネタを入れたい人なら。売れそうなだけ作りましょう。
- オンデマ=50部くらいならまあまあ完売が見込めるかな?の規模の所向け。
- オフセット=安定して200部~刷っても良い大手なら、もうコレ一択で。
印刷手段によるクオリティ差
部数とコストとは軸が違う、同人誌を作る人があるいはこだわりたいこの点についてもまとめておきたいと思います。
| 印刷手段 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| コピー | 当日朝の版下完成でも間に合います(大事なことなので2回) | 通常は、表紙にフルカラーを使えません。読んでいて手が汚れるのも気になりますし、長期保存にはまったく向かず、気がついたら部屋に積んでいたものがボロボロになっていることも。 |
| オンデマンド印刷 | 容易に表紙フルカラー可。本文フルカラーも可。印刷所から届いた新刊の段ボール箱を開ける時の喜びは普通に味わえます。 | 身の丈にあった、実売数に見合ったほどほどの発行部数で満足できて背伸びをしない方なら、ほとんどデメリットはないと思います…。 |
| オフセット印刷 | 普通に表紙フルカラー可。本文フルカラーも可。印刷の質もオンデマンドよりは良い。発行した部数を無事にさばけるようなら、全部ハッピー。目指せ大手。 | 部数を多く読み間違えて、印刷し過ぎたものの在庫がはけるあてもなく部屋の圧迫と資金の枯渇を招きかねないという読みとリスク管理が必要になります。自分で印刷した同人誌の段ボール箱が無くなる見込みもなく、やむなく自分で破棄するような事態は二度とやりたくないものですね(私は経験あります)。 |
基本的に自分が書きたかったのは、この表の内容でした。以下、余談。
昔話:20世紀のコピー同人誌
「同人誌はコピーかオフセットか」という議論は、そもそも1980年代頃から普通に同人サークルの間ではあった古典的な議論であり、それぞれのメリット・デメリットも上記の表と大差ないです。まあ当時はまだオンデマンド印刷が存在しなかったという最大の違いがあるのですが。(青焼きコピー誌やガリ版の話をするつもりはないですよ…)
基本的には、いまも昔も同人サークルというのは大半が大手ではない中小のサークルが多数の世界ですので、この「コピー本かオフセット本か」というのは大手ではない大半のサークルが常に抱いていた悩みでした。不詳わたくしも、当時は過去に「オフセットだからとりあえず200刷るか…」ということで印刷した同人誌が、半分は残って押し入れを占拠して、やむなく捨てた残念な経験もあります。
さらに言えば当時の同人誌印刷所の価格は、ざっといまの2倍はしましたから、これは完売を前提にした費用面でも割と深刻なダメージでした。
そんな思いをしてまで無理に背伸びしてオフセットで刷ることないじゃん?と思いたくなることもあるのですが、これを理解するには、当時のコピー同人誌というものは「機械にPDFをセットしてボタン1発で製本までしてくれる」令和のテクノロジーが存在していなかった時代の手作業による産物であることは理解する必要があります。要するに当時のコピー同人誌なんて、せいぜい24ページ30部くらいが限界で、それより多くの部数やページ数の同人誌を作るとかはしんどくてやってられんわという単純な話です。60ページ100部の同人誌とか、ヒマと体力が有り余っていた20代の頃の自分ですら、ちょっとコピー本では無理でしたわ。
そこでここでは、当時の実際のコピー同人誌作成では、どういう作業が必要だったのかを、当時を知らない方のために簡単にまとめておこうと思うのでした。
| 工程 | 内容 | 備考 | |
|---|---|---|---|
| 1 | 原稿作成 | 基本は今の同人誌と変わりません。まあPCでなく実際の紙の原稿を作る必要はありますが、これは当時の大手のオフセット同人誌でも同じ話です。 | 4の倍数にします |
| 2 | 丁合 | たとえば8ページの右綴じの同人誌であれば、片面コピーであれば原稿を「2+1/4+3/6+5/8+7」ページごとに並べてコピーを取る必要だけで良いのですが、両面コピーの平綴じであれば「1+4/3+2/5+8/7+6」ページの順に並べたうえで「1+4の裏面は3+2」とかをコピーしなければなりません。あるいは両面コピーの中綴じであれば「1+8/7+2/3+6/5+4」ページの順に並べたうえで「1+8の裏面は7+2」とかをコピーしなければなりません。 左綴じだとまた順序は異なります。いずれにせよ、ここを間違えると乱丁が発生してコピーをやり直しになります。 | たった8ページですらこうなのですから、これが32ページの右綴じ中綴じ同人誌だったりすると「1+32/31+2」とかで…あとはわかるな? |
| 3 | コピー | コンビニのコピーもありましたが、当時は1枚10円を超えていたかもしれない費用の関係から、大学の近くなどにあったコピー業者に出かけて行って、1枚7円とかそういう値段で、自分でコピーを取るのが専らでした。 | コピー機の上に原稿2枚を置いて部数ぶんだけコピーします。両面コピーなら、さらに原稿を入れ替えてからコピーしたものを入れ替えて正しい裏面のコピーを取ります。乱庁を防ぐには、あらかじめ作成した上記の「丁合」の数字メモを店に持参するのは必須です。 |
| 4 | 表紙色替え | 表紙が白黒用紙だと味気がないので、当時は表紙だけは別途文房具屋で別の良い紙や特殊紙、カラー用紙を購入して、自分で表紙コピーの際に用紙を差し替えるようなこともやりました。 | 丁合を間違えると(略) |
| 5 | カラー表紙 | 別系統の話として、コピー業者を利用せずに、自宅のカラープリンターで表紙(あるいは本文も)をフルカラー印刷する、みたいなこともやりました。 あるいは「カラーコピー」の利用も。 | いちおう当時「フルカラー印刷」を可能にできた方法ですが、カラープリンタのインク代などがむちゃくちゃコストがかかるので、これをやるのは特殊めのケースです。1冊100円以上の追加コストかな? 業者のカラーコピーは目の飛び出るような値段でした。1枚200円とか。 |
| 6 | 紙折り | コピー業者によっては、店内に紙折り機を常備しており、別料金(1枚1円とか)を支払うことで、コピーが終わったあとの用紙を機械を操作して店員にやって貰うこともありました。というより、自宅で(ページ×部数の枚数の)紙の1枚1枚を手で折るのはとてもつらいので、これを使える業者を自分は選んでました。 | 紙折り機の操作や依頼ミスで、うっかり山折りと谷折りを逆にすると大惨事。基本、自分で1枚1枚を手で折りなおす羽目に。 |
| 7 | 仕分け | コピーしたものは、一冊単位で製本可能な単位でソートされているわけではなく、丁合による原稿単位で部数ごとの山になります。従って、これは自宅に帰ってから改めて全部の山を順序を決めて部屋に並べたうえで、そこから1枚1枚ずつを抜いてホチキス綴め可能な形で重ねるという工程が必要になります。片面8ページの同人誌でも山が4つになりますし、片面32ページなら山は16個になります。 これを部屋でやるので、作業により自分の手は真っ黒になります。 | これが丁合が多少は面倒くさくても「両面コピー」にする最大の理由です。 まれに重なっているコピー2枚を一度に抜いてしまうミスをしますが、通常それは最終的に落丁を伴い枚数が合わなくなるので、それに気がついたら仕分け済のものを全部チェックして2枚重なっているものを探します。 |
| 8 | ホチキス | 無事に仕分けが終わったなら、それを1冊ずつホチキスで止めます。平綴じならそのまま、中綴じの場合には中綴じホチキスが可能なホチキスを使用します。 | ここまでくればほぼ完成、または完成 |
| 9 | 製本テープ | 綴じた同人誌のホチキスが剥き出しになるのは、引っかけると痛いし気持ちよくもないので、ここで「製本テープ」を買って、ホチキスの上から背中をテープで包み貼りする、ということをやるかもしれません。私はやってました。 | この工程は省略が可能。 当然、そのためのコストが1冊あたり10円かそこらはかかります。 |
| 10 | 完成 | 完成した売れる状態の自分のコピー同人誌を手にとって「むふー」します。 | 完売してくれるとイイナ! |
部数とページ数にもよりますが、自分の規模(ピークで32ページ30部くらい)だと、軽く半日ないし1日は潰れますね。当時は水道橋の「コピージャスト神保店」のお世話になったものでした。さすがに今は存在しないようです。
そしてここまで読まれた方なら、冒頭での当時の「コピー本はせいぜい24ページ30部くらいまでじゃないかなあ」という理由も、お分かりいただけたのではないでしょうか。いまはPDFをセットしての「ボタン1発」でできますからね…。
昔話:即売会スペースでの製本
むかしは「コピー同人誌」の作成というのは現代の「PDFを入れてぽちったら製本まで終えたものができる」わけではなく、非常に面倒くさくて時間もかかる手順が必要だったのですが、それはそれとして当日ギリギリまで原稿を描く方というのはどこにでもいらっしゃるので、今でも当日の朝などにキンコースなどでコピーした同人誌などをブースで売るのは壁際大手などでも普通ですが、さすがに「ブース内で製本しながら売る」という作業をするサークルは、今はあまり見かけませんね。
今もこういうことをやるのは「昔の壁際」みたいな所が多いですが、正直なところせめて自動製本つきのコピー機くらいは利用しない?と割と冷ややかな目で見ています。8ページ本の豆本コピーを「自分で折ってね」と紙1枚を売るのは無問題ですけど。
それに関連して、むかしの恨み節を思い出したので、名前を特定しない範囲でちょっと書き留めておこうかなと思います。
あれは20年以上前のコミケだったと思いますが、ある知人のサークルが、20世紀の頃は商業誌に連載していたプロの漫画家との交流があったため、その方のコピー同人誌をそのサークルで販売するということがありました。当時のことなので、そこそこそこを訪れるオタクたちには注目されていた漫画家のようでした。
最大の問題は、その漫画家の方が自分の新刊コピー同人誌のための大量のコピー済の未仕分けの未製本の紙の山(しかもB4の大きサイズ)をそのサークルに持ち込んだのが、コミケ当日の昼であったということです。
さすがに、そこから机の上で折ったりする必要はなく、たしか1枚ずつを束ねて上でホチキス留めするだけの作業ではあった(カレンダーかイラスト集だったと思います)のですが、机の上にぜんぶの山を並べることが不可能なサイズと量だったため、2回か3回に分けて束ねた覚えがあります。20ページくらいだったかなあ。
さらに問題は、そこでそのコピーの仕分けと製本と頒布を行ったのは、たまたまそこの手伝いで店番に入った僕たち夫婦の2人のみであったということです。2人とも別にその方のファンでもなく、ていうか知らない人だったんですけど…。
僕らが当日にあそこで手伝った理由は「目の前の困ったひとを見かねて」というのが一番大きかったし、すでにコミケ当日の目当てのチェック済の本は買い終わって、あとは休憩してから改めて全部の壁際をもう1回2回は回るか…というくらい気力と体力は余っていたからできたことですが、しょーじき今なら「僕らの知ったことではありません」と即座に断るべき案件ですね。そもそもその漫画家本人すら、この製本作業をせず僕らに任せっきりで紙束を預けるなりどこかに行ったからなぁ…。
こうして僕ら夫婦は、コミケ当日の昼過ぎというゴールデンタイムの1時間ほど(たしか)を、脇目もふらずにコピーの製本を続け、すでに嗅ぎつけてサークル前に列を作りだしたオタクたちに対して「すみませんまだ製本中で売れません」と謝り続ける不毛な時間で潰すことになりましたとさ。
しょーじき現在に至るまでぼくら夫婦の間では、あの漫画家の名前が出ると、このときのことを思い出して苦々しく思うレベルの話になりました。まあ、それから現在に至るまでほとんど会うことなどもなかったのですが。
この話の教訓(恨み節)
- 開場後にスペースの前で頒布物をいちから作るような計画はやめろ!
- 事前にできる準備はできるだけ済ませておけ!
- 赤の他人の無償の善意を戦力としてあてにすんな! せめて自分自身でやれ!
(おしまい)
あ、自分が手伝ったどこのサークルのどの漫画家のことを言ってるのか分かった人でも、内緒でおねがいします。

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