映画「白鯨との闘い」を観てきました。
http://wwws.warnerbros.co.jp/hakugeimovie/
以下、この映画についていささか語りたいと思います。
ネタバレNGのひとはここから先は読んではいけません。
映画「白鯨との闘い」とは
この映画、ひとことで言えば「タイトル詐欺」な映画ではないかと思うのです。ええ、それも「日本の映画会社が配給でつけたタイトル」のタイトル詐欺です。
「白鯨」と言えばまずはメルヴィルの19世紀の小説であり、エイハブ船長でありモヴィ・ディックである…というのが、おそらくは基本としての共通認識ではないかと思います。
筆者も1956年の映画を子供の頃にTVで見て、エイハブ船長が手招きをするシーンは軽いトラウマになりました。
さて。
それを踏まえたうえで、この「白鯨との闘い」というタイトルとポスターで映画の内容を想像すれば、これはもう誰がどう考えてもこの荒くれ男たちと白鯨との死闘を描いた海洋冒険作品になる…と思うことでしょう。
なのですが。
大きな問題として、実際にはこの映画、白鯨とは「闘ってません」。
これはメルヴィルの「白鯨」の映画化ではないのです。
まぁ映画のポスターにもよく見れば「名著『白鯨』の隠され続けてきた衝撃の実話。」とか「伝説の白鯨との死闘。生き延びる為に、男たちが下した”究極の決断”とは」とか、何やらヒントが書いてあるのですが、まぁ普通、読み流しますよね、こういうのは。
では、それを踏まえたうえで、この映画の筋を紹介していくことにします。
映画「白鯨との闘い」のあらすじ
基本的な流れとして、この映画は19世紀にメルヴィルが「白鯨」を執筆するうえで、白鯨と遭遇して生還した船乗りの1人から話を聞くという構成になっています。
まぁ、ある意味「これは白鯨の映画化じゃないよ」というサインにも見えます。
本編の視点は基本、捕鯨のベテランの副船長を主人公にして話が進みます。
この副船長が依頼を受けて捕鯨船エセックス号に乗る過程で「捕鯨は当時の欧州が求めた鯨油を得るために財界主導で行うものである」「ベテランだが叩き上げで船長にはして貰えない」「船長は財界の毛並みの良いおぼっちゃん」と言った当時の時代背景が語られます。
しかし出航後に「何年をかけてでも船倉に1600樽の鯨油を満たして帰る契約だ」とかいった軽いジャブが出てきて、この数字にたぶん観客は驚くことでしょう。自分も驚きました。
やがてミンククジラ1頭を発見して、ここで当時の捕鯨の描写がふんだんに行われます。エセックス号から10人乗りくらいの小さいボートを下ろして、ここでオールを漕いで近寄り、近寄ったら主人公が長いロープのついた銛を頭に打ち込みます。あとはロープがなくなる前に鯨が力尽きれば捕鯨に成功…というものでした。このへんは多分当時の史実に忠実。
ロープが伸びきっちゃったらボードがまだ元気な鯨に引っ張られるのかなー、とか思いましたが幸いにしてそのような事態にはならず、ともあれこの捕鯨は成功してみんなハッピーに。
次は鯨の死体に潜って油を汲んだり「このミンククジラ1頭で50樽ぶんの鯨油が」「脳油は特に貴重だ」とかいった明るい描写がなされます。本作は年齢制限はないのでグロ描写は特にありません。
何にせよ、つまり何年かかけてこういうのをあと30回くらい行えば本国に帰港できるわけですね。
さらに続く「鯨を捕り尽くしてしまったようでさっぱり見かけない」「ホーン岬を渡って太平洋へ」と言う展開のあたりでは、自分としては「お前らよくこんなことやっておいて今になって日本に捕鯨禁止とか言えるよな」
というツッコミを抑えられませんでしたが、これは本題ではありません(笑)。
そして「船長の判断ミスで嵐に遭ってエセックス号が損害を受ける」「だがまだ契約した量の鯨油を得ていないのにおめおめと本国には帰れないのでチリで修理する」という展開になり、だんだん暗雲がたれこめてきます。
そしてチリの酒場で出会ったボロボロの元船乗りの男から「西に3000マイルの所に途方もない鯨の群れがある」「ただし『怪物』がいた」という話が聞けます。
観客としてはキタキタキタキター!という感じですが、もちろん怪物のことなど無視してエセックス号は西に向かいます。
ちなみにここで「4800キロ」という妙に細かい数字を字幕にするのはどうかと思いました林せんせい。
そして西に3000マイル来ると「大勢の鯨がいるぞー!」の報告を見張りがします。一同は狂喜してボートを出して続々と乗り込み、いよいよ楽しい鯨狩りを始めることにしました。
ただし当然、ここでいよいよ「怪物」の登場です。観客も固唾を呑んで先を見守ります。これからいかなる死闘が繰り広げられるのでしょうか。

そして一行の前に、でかくて白い鯨「怪物」が登場しました。
大きさはエセックス号(50mくらい?)と同じくらいの大きさだったでしょうか。
ともあれ皆の小さなタグボートでは話にならない大きさです。その「怪物」はエセックス号のほうに進んできました。
そして「怪物」はエセックス号に近寄ると、すれ違いざまにその尻尾でエセックス号を一撃。
一撃でエセックス号は大破。そして何かに引火したのか、エセックス号が炎上を始めます。
このため急いで総員は、鯨狩りなど中止して、できるだけ水と乾パンを積んだうえでボートで脱出することになりました。やがて炎上してエセックス号は沈みました。
白鯨との闘い(完)
…闘ってません。闘いになってません、これ。
ともあれこの瞬間から、僕たちは後半、別の映画を見始めることになりました。
要するに「こんな太平洋のど真ん中でわずかな食料と水だけもって手漕ぎボートだけで放り出された俺たち」「東に3000マイル戻るしかないのか」という映画の始まりです。
…まああとは、だいたい予想がつく通りの展開になります。
一言で言えば「『白鯨』を観に行くつもりだった僕が観たのは『アンデスの聖餐』でした」という感じです。
ちなみに、最後はそれなりにヒューマンな締め方で、これ自体は映画としてそれほど悪くはないのです。
ただ「白鯨との闘い」を期待したひとが見たがった結末だとは思えないのですが。

ここでいま一度この映画のコピーを見返すと、
「名著『白鯨』の隠され続けてきた衝撃の実話。」
「伝説の白鯨との死闘。生き延びる為に、男たちが下した”究極の決断”とは」
…うん、何も嘘は言ってませんね!まさにこういう映画でしたよこれは!
ついでに原題は「In the Heart of the Sea」(大海の中心で)。
…うん、これもこの上なく嘘は言ってません。

というわけで「白鯨との闘い」は、日本の映画会社がつけた題名に騙されなければ、そこそこ見所のある映画であったと言えるでしょう。
(追記)Wikipediaによれば当初の邦題は「白鯨のいた海」だったらしいですね。これならまあ、納得。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%99%BD%E9%AF%A8%E3%81%A8%E3%81%AE%E9%97%98%E3%81%84
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