映画「ドリーム」(2017)を観ました

昨年末に米国で公開されて大ヒットし、日本では9月公開が決まった本作。

マーキュリー計画を描いた作品なのに配給から「ドリーム 私たちのアポロ計画」などという観客を舐め腐ったスカタンな邦題をつけられて非難轟轟になり、最終的に邦題が「ドリーム」となった本作。

…という事前情報を得ていたので、これは公開したらぜひ観たいなあと思っていたのですが、たまたまUSAからの帰りの飛行機の中で吹き替え版をすでに配信していたので、これ幸いに鑑賞しました。

「ヒドゥン・フイギュアズ(原題)」というタイトルに苦笑。

さて肝心のこの映画の内容ですが…今回のタイトル騒動から、マーキュリー計画を描いた映画なのだということは分かっていたもののそれ以前の予備知識はほぼナシで自分は臨んだわけですが…このためいささか驚かされました。

 

黒人差別

これは映画を観る前の予備知識として知っておいたほうがいい話(というか宣伝でも使われる情報の筈)だと思うので書くのですが、この映画は「ドリーム」なんていう勝手につけた邦題が想起させるような、マーキュリー計画を成功させるエンジニアの「夢」を実現できて良かったですねというような甘っちょろい話では全然ありません。

これは最初から最後までフルスロットルで黒人差別を描いた映画です。ええもう冒頭で3人の乗る車が故障で止まるシーンからフルスロットルで黒人差別。「二ガー」も連発。

基本的にはマーキュリー計画を成功させるために、この3人の優秀な黒人女性が、NASAですらも色濃く残る黒人差別に苦労しながらそれをひとつずつ外していき、認められていくという話です。
もちろんラストは(さすがに書いてもいいだろう)「マーキュリー計画が成功して良かった」という形で綺麗にまとめているわけなのですが、そちらは別に本題ではないとしか言いようがなく。

この映画で色濃く描かれているのは、「人類の夢」(正確には米国の夢)のマーキュリー計画に参加しているような、僕らがNASAの「一流のエンジニア」として認識しているような方々は、その心も黒人差別のような非科学的な迷信には決して寄与しない方々…ということではまったくなく、むしろ逆にそのような方々でも息をするように黒人差別をしているということを、これでもかこれでもかと描き続けます。

彼女らがそのようなNASAでそれと闘い、それを克服することができるのは、ひとえに彼女らが「かけがえのない優秀な知性と技術」を身に着けていることが誰からも明らかな状況であり、かつ「マーキュリー計画」というものが、当時明らかに宇宙開発でソ連に後れを取っていたアメリカとNASAにとっては絶対に成功させねばならない計画であり、そのうえで「彼女らを用いない」などという悠長なことを言ってる余裕はどこにもないから重用されただけの話である、とも言えます。
もし余裕のある状況や組織であれば、彼女らを採用せずに平気で排除して「これは差別ではない区別だ」とでも言うのも明らかであったりもします。基本、そういう映画です。

ただしWikipediaを読んで、このNASAの黒人差別の描写は事実よりはだいぶ誇張されていることが分かりました。やはりNASAに勤める一流エンジニアのような知性と判断力を持つ方々は、たぶん南部の平均的な方々よりは「だいぶマシ」だと思われます。

そうした「差別と逆境を克服して成功する」という話ですから、これは普通に宇宙開発の予備知識がほとんどあるいはまったくない方々でも、それなりに楽しめる話であると言えますし、実際、素直にお勧めできます。
ぜひ機会があれば観にいってください。

 

宇宙開発映画

とはいうものの、この映画を全力でプッシュできるのは、やはり宇宙クラスタと言える方々に対してでしょう。テーマは黒人差別ですが映画そのものはマーキュリー計画を描いているものなので、細部のディテールがいちいち快いのです。

ことにこの映画で中心に扱っている技術は、NASAがロケット打ち上げと回収という困難な計画を達成するために必要な無数の技術のうちの軌道計算なのです。いわゆるハードウェア寄りの話や他のサイエンスの話はほとんど出てきません。

おそらく僕がこの映画を観て欲しいと思うひとは全員これを聞いただけで即座に観にいくと確信しているのですが(笑)、NASAの計算センターで多くの方々が手計算を行っているところから、IBMのコンピューター(もちろん部屋一杯のサイズのもの)を導入するも使用するために苦労する話とか、でかい黒板に延々と方程式を脚立を使って書いていくところとか、もう観ていて脳汁出まくりですよ。

普通にお勧めできますが、宇宙クラスタには絶対のお勧めの作品です。


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